時代の変化に対応する都心の染色工場

産地の学校東京校の講座も第9講になりました。今回は教室を飛び出し、東京の染色工場へ。

お邪魔したのは、文京区茗荷谷駅から徒歩10分ほどのところにある内田染工場です。かつて川だったという道路に面した内田染工場は、なんとマンションの一階に工場の一部があり、都心の工場特有の雰囲気が印象的でした。

染めの説明と工場を案内してくださったのは、内田染工場3代目、内田光治さんです。

内田染工場さんは創業明治42年、今年でなんと創業110周年を迎える歴史ある染工場です。現在は糸や生地ではなく、製品の状態になったものを染める製品染めを行なっています。

かつて都内にも染色工場はたくさんありましたが、現在は十数社にまで減ってしまいました。近年国内生産は見直されつつあるものの、メイドインジャパンはわずか2-3%だそうです。そんな中で内田染工場がアパレルから支持されている理由は、小ロット対応とスピーディさに加え、素材対応力があることです。

内田染工場は創業時は靴下の染色を行なっていたそうです。靴下は天然繊維と合成繊維を混ぜて作られることが多いため、様々な素材を染める技術が培われたそうです。

製品染めは1着ごとに染めることができるため、小ロットに対応できます。売れ残りの服を染色によって生まれ変わらせることができることができるのも、メリットの1つだと言います。

また、異素材の糸がミックスされている服などを同じ染料で染めることによって、予想外の発色が起こることも製品染めの面白いところだそうです。

製品染めには当然デメリットもあります。製品になったものを染めるため、縮みすぎた場合サイズが変わってしまったり、製品として販売できなくなることもあります。そのためサンプルから量産までに多くて4、5回縮率検査を行うこともあるのだとか。

検査にかかるコストが重なると、原価が上がる要因にもなります。染色加工のための機械や染める時間によるダメージ、サンプルと量産の再現性が難しいといったデメリットもあるそうです。

一方、上記のようなデメリットが製品を面白いものに変化させることもあります。縮むことにより形に変化が出たり、ダメージにより使用感が出たり、思わぬ発色で新しい色合いが生まれます。メリット・デメリットをバランスよく考えながら提案することも製品染めの面白いところだと、内田さんはおっしゃっていました。

第2講で素材ごとの染料について学びましたが、今回の講義では染色・加工の種類についてより詳しく知ることができました。色を入れるだけではなく、ブリーチすることにより色を抜く技術や多少色落ちをさせ、少量の毛羽を刈り取る効果があるバイオウォッシュ加工などの紹介もあり、染色加工だけで数え切れないくらいの種類がありました。

内田さんは工場内の機械やシステムにも力を入れているそうです。

サンプルから色の種類と水の割合を計算する、コンピューターカラーマッチングシステムを設置し、時間がかかっていたビーカー染めを早めることで、サンプル染や量産染めの依頼を受けやすくしたそうです。

下の写真はオーバーマイヤー染色機と呼ばれるもの。丸い筒状の容器の中に製品を詰め、染料を中心から噴射するため、生地がよく染まるそうです。製品をぎゅっと詰めるため、使用する水の量を少なくできるのだとか!

内田染工場には機械をいじれる職人さんもいるそうで、オリジナルで制作したスワッチ用染色機や、グラデーション染めができる染色機などがありました。

他にも最近設置した洗い機などを見せていただきました。

東京のアパレルから納期が迫った依頼が多いため、設備を日々工夫することで、対応しているといいます。

ファッショントレンドが生まれる東京で、100年以上染色工場を続けている内田染工場。

東京にある工場だからこそ、内田さんは常に時代に求められることを取り入れながら工場を経営されていました。内田さんご自身も服が好きだといい、作り手が服を着ることを楽しんでいる工場のあり方が、とても素敵だと感じました。

内田さん、貴重な講義と見学をありがとうございました!

森口

 

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